Far Outの扉を叩く日

さて、初めてのロンドンでのレコード購入も無事に完了。
次なるミッションは、いよいよJoe Davis主宰の〈Far Out〉の事務所へ向かうことだ。

まだ会ったばかりのJoe。
持っているのは電話番号と、紙に書かれた住所だけ。
スマートフォンなんてもちろん存在しない時代、頼りは「地球の歩き方」と、少しシワになったロンドン地下鉄の路線図。

“本当にこれでたどり着けるんだろうか…”
心のどこかで、そんな一抹の不安がチラつく。

マップを指で追いながら、目的地の駅名を探す。
——Osterley(オストリー)。

……ZONE 4?

遠い。
ロンドンの中心がZONE 1で、仕事や学校が集まるのがZONE 2。
せいぜいZONE 3までが“日常圏”と呼べる距離感。
そのさらに向こう、ZONE 4は未知の領域だ。

「まぁ、行くしかないっしょ。」
自分にそう言い聞かせながら、受話器を取った。

「Hi, Joe! I’ll go to Osterley. How can I get to your place from there?」
片言の英語でそう伝えると、受話器の向こうからいつもの明るい声が返ってきた。

「Oh, Kamiya! Just call me when you get there. I’ll pick you up!」

軽い。
あまりにも軽い。
でも、なぜかその“ノリ”が嬉しかった。

当日、Earls Court駅から電車に揺られること体感50分。
見慣れたレンガの街並みが次第に郊外の緑に変わっていく。
地下鉄特有のガタゴトという音が、冒険のリズムみたいに胸に響く。

Osterley駅に到着。
小さな駅前、風が少し冷たい。
公衆電話からJoeにコールすると、
「I’m coming! Wait there!」という声。

数分後、白い高級車が駅前にスッと停まった。
運転席から笑顔のJoeが手を振っている。

「おお、これがロンドンのスピード感か…!」

不思議なもので、
言葉が完璧に通じなくても、
音楽の縁があれば人はすぐに繋がれる。

ワクワクしながら助手席に乗り込む。
今日はどんなレコードが待っているんだろう。
エンジン音と共に、僕の“レコード留学”はさらに深く、ロンドンの奥へと潜っていった。

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