ロンドンに着いたはいいけれど、まったくのノープランだった。
英語はほとんどわからないし、街のこともまったく知らない。
当時はネットもないから、“地球の歩き方”を片手に、まずは宿と、当面暮らせる部屋を探すのに街を歩き回った。
ジャパンセンターという場所があるらしい、と聞いて、情報収集に向かう。
すると、壁に貼られたフライヤーが目に入った。
Gilles Petersonの盟友、UFO(UNITED FUTURE ORGANIZATION)がツアーで来る。
まだ住む家も決まってないけど、「行くしかないっしょ」と心がざわつく。
そうして僕の初めてのロンドン夜遊びは、UFOのライブから始まった。
しかも、JALがスポンサーについている。
(ここまで来て尻込みする理由なんてなかった。)
クラブに足を踏み入れると、そこは本場の空気がビシビシ。
年齢もバックグラウンドもバラバラの人々が、音楽の波に身を任せている。
音楽IQの高い空間は、初めてでも自然と背筋が伸びる感じ。
「よし、Gilles PetersonとUFOと友達になる」
自分の尻を叩きながらフロアを行ったり来たり。でも当然、スペシャルゲストは楽屋にいるに決まってる。
そんな都合のいい話はそう簡単にはいかない、と半ば諦めかけていたそのとき。
バーカウンターに向かうと、どこかで見覚えのある顔が。
KYOTO JAZZ MASSIVEの沖野好洋さんだ。
嬉しくなって、自然に声をかける。
「かくかくしかじかで…」と事情を話すと、沖野さんはニッコリ笑って、目の前の外国人を指差した。
「ほんなら、彼に聞いたらええやん」
え、どなたですか?
「彼? 知らん? JOE DAVISやで」
ガガーン。
ブルブラジルのコンピレーションでブラジリアンセレクターとして知られるあのJOE DAVISじゃないか。
信じられない気持ちと、心臓のドキドキが入り混じったまま、僕はその瞬間を噛み締めた。