脳汁が止まらない、ロンドンの午後

「すばらしい……これは大好きなサンバジャズだ!」
——と言ってみたものの、
実はこの言葉、さっき覚えたばかりだったりする。

「他にないの?」

僕がそう言うと、Joe はちょっとニヤっとして、
「ふふっ。あるぜ、カミーヤ」
と、まるで手品師のように棚の奥をゴソゴソし始めた。

出てきたのは、Zimbo Trio / Vol.2

……や、やばい。
これも、これも、これも全部カッコいいじゃないか。

針を落とすたびに、
ピアノは跳ね、ドラムは突進し、
ベースは地面をぐいぐい押し上げてくる。

身震いする。
本気で、物理的に震える。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
心の中で叫ぶ。

沖野さんと一緒にいたからか、
Joe は完全に僕を“筋金入りのレコード・コレクター”だと思っている節がある。

違う。
バリバリのビギナーです。
そして、お金も、ない。

でも、そんなことは口に出せない。
この状況で言えるわけがない。

「今日は食べ尽くしてやる…!」
そう腹をくくるしかなかった。

そして、次に出てきた一枚。
Os Catedráticos

Blue Brazil でもノックアウトされた、
Os Grilos のカヴァーが収録された、
あのオルガン・ファンク・ヴァージョン。

**eumir deodatoの白黒ヴァージョンジャケットがオリジナルですが、当時はこれを薦められたのでこちらのジャケヴァージョンで。**

……やばい。
これは完全にやばい。

脳汁が出まくって、
もはや判断力は麻痺状態。

「……これ、取り置きで」

気づけば、そんな言葉が自然に口から出ていた。

さらに数枚、
さらに数枚。

気づくと、床に積まれた“取り置きゾーン”が、
なかなかの存在感を放っている。

そこで、意を決して、
喉の奥がカラカラに乾いたまま、聞いてみる。

「あのーー……
これって、お値段いくらなの?」

声は震え、
目はレコードに釘付け、
頭の中では電卓が高速で壊れ続けている。

19歳、ロンドン。
サンバジャズとオルガンファンクに溺れながら、
僕は人生で初めて、
“音楽が贅沢すぎて怖い”という感覚を知った。

#dj

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