さて、目の前に広がるブラジリアンレコードの洪水。
19歳の僕には、ほとんど見たことのない盤ばかりで、知識のキャパを完全に超えていた。
「これって…聞かせてくれる?」
勇気を出して聞くと、Joe はにっこり。
「もちろんいいぜ!」
でも、僕はまだ超初心者。
「何かおすすめってある?」と聞くと、Joe がこちらをじっと見つめる。
「カミヤは何が好きなん?」
「うーん…ジャズかな。ピアノジャズとか」
「おお、そうか。じゃあこの辺はどう?」
出してくれたレコード——Zimbo Trio / Zimbo Samba。
当時の日本のレコード屋でも見たことがない。
聞く前から胸がギュッと締め付けられる。
針を落とす。
ド・ド・ドっと響くドラム。
激しいバッキングのピアノ。
音が空気を震わせ、胸の奥まで届く。
こ・これはーーー!
思わず料理漫画の主人公みたいに叫んでしまう。
感動で体が震える。
まさに至福。
それがこの曲👇
Zimbo Trio / Zimbo Samba
「こんなのが好きなんだな」
Joe は笑いながら次のレコードを手に取る。
「他にもある?」
「もちろんあるけど、ちょっと待ってくれ」
「え、なんで?」
「俺は今からシエスタする。だから適当に聞いといて」
えええーーー!?
お昼寝タイム!?
世界観が広すぎる。
19歳の頭の中で「衝撃」「至福」「混乱」の三重奏が鳴り響く。
ブラジルのリズムとJoeの自由な時間感覚に、僕は完全に飲み込まれた。
