75ポンドの決断、ブラジル盤と刺し違えた日

「オッケー、それじゃあ行ってみようか!」

JOEはそう言って、まるで近所のマーケットで野菜を選ぶみたいな軽さで、レコードを端から手に取っていく。

「これは20ポンド。
これも20。
で、25。
ああ、これはレアだから50だな。
これも50。
んー……これは75。
あ、これはヴェリーレアー。100ポンドだ」

……。

一枚一枚、数字が積み上がっていくたびに、胸の奥が静かに軋んでいく。
安い。
安い、とは思う。
この内容、このクオリティ、この背景を知ってしまった今なら、間違いなく破格だ。

でも――
19歳の財布には、致命傷だった。

重い。
重すぎる。
即死レベル。
合計金額は、思いっきりキルなやつ。

一瞬、世界がスローモーションになる。

よし……。

「それじゃあ、まずこの20ポンドと25ポンド。
それと、もう一枚20ポンド。
あと、この50ポンド」

ここまでは、まだ現実だ。

「で……」

一瞬、手が止まる。
75ポンドの一枚。

……。

「これも、もらった!」

完全に飛んだ。
崖から。
清水の舞台から。
安全ネットなし。

でも、これをしにイギリスに来たんだ。
ここで引いたら、一生後悔する。
死ぬなら、ブラジル盤と刺し違えて死ぬ。

りっぱだ、俺。

とうさん、かあさん、やりきりました。
頭の中で、勝手にエンドロールが流れ始める。

現実に戻って、震える手でお金を払い、
その貴重なレコードたちを、そっとレコードバッグに仕舞い込む。

枚数は、ほんのわずか。
なのに、財布はもうペラペラだ。

不思議なもので、心のほうは逆だった。
異様なほど、満ちている。

ロンドンの曇り空なんて、もうどうでもいい。
早く帰りたい。
部屋に戻って、針を落としたい。

この日のサウンドトラックは、
Fittipaldi Showのブラジル盤。(youtubeのとは違う黄色いジャケット)

そしてこれが――
私の人生で、はじめての「万越え」の一枚となるのだった。

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